山田孝雄『日本文体の変遷』

公卿の日記なども、本来漢文なるべきものが、されどこれは内々のものなれば、必ずしも厳密に法則を守る必要とせねば、国語を交へかき、或は文字の置様は、漢文の法則に従はずして、勝手に顛倒してかき、或は他の字の音訓を借りて書きたるもの漸く多くなりたり。
(中略)
顛倒して読むべきものなれば、漢文の如くに見ゆれど、実は仮名の文と同じ様のものにして、漢文にはあらざるものなるが、さりとて国文ともいふべきものにあらず。かくの如き文体は主として公卿の日記記録類に用いられたれば、世に之を記録書といへり。之を読まむには一定の法則なく、ただ慣例により推量を以てよむべきものなりとす。