井原今朝男『中世寺院と民衆』

宋学と合理的思考(P256〜)
(上略)
鬼神を語らずという儒教が合理的思考をもたらしていた。ただ、『花園天皇日記』には「禁裏之風」が「宋朝之義」であるのはよいが、その解釈が仏教になずんでいる点はしたがえないと指摘している(元亨二年七月二十七日条)。儒教と仏教とが思想の葛藤を生み出さずに、安易な妥協をもたらしていたらしい。神霊や怪異に対する合理的な判断力を中世民衆や中世人がどのように獲得していったのかをあきらかにする研究は今後の課題である。民衆が呪術や鬼神、怨霊信仰から脱して合理的思想を獲得するのに、中世における儒教がどのように貢献したか知りたいものである。