「京都土産」

一、蕎麦

武者小路丁子屋之忠義蕎麦并椹木町之狸庵、又は新町通中長者町之井筒屋杯ハ精製之由なれとも、蕎麦色黒く汁薄く味よろしからず。下谷之無極庵、蓮玉庵ハ姑く置き平常之二八蕎麦二も劣れり。唯姉小路御幸町西へ入養祐堂製蕎麦粉ハ信州より取寄、醤油ハ江戸之品を用ひ地物を一切不相用極精製之趣二而、華頂御殿御用を達る由二而、蕎麦色白く汁濃く風味外蕎麦とは別格なり。江戸平常之御膳蕎麦位二も殆ト可及なり。併年廻り悪不愉快なり。

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京都土産は、元治元年、石川明徳が著者。