『古今著聞集』興言利口第二十五

松尾神主頼安かもとに、たつみの権守といふ翁ありけり、わつかに田を持たりけるに相論のことありて、六波羅にて問注すへきにさたまりにけり、其日になりていてぬ此ぬしはまうにおこかましき物なりけれは、いかなる事かしいてんすらむと神主思ゐたるに、晩頭に此権守神主か家の前をとをりけり、神主よひ入ていかに問注はしなしたるそおほつかなくて待ゐたるになとよそには過侍そといひけれは権守ゐなをりて過失なけなる気色にてなしかはつかうまつりそんし候へき是程に道理顕然の事なれは一々につまひらかに申て候へは敵口を閉て申旨なく候是程に心ちよくつめふせける事こそ候はねあはれきかせ給て候はは御感はかふり候なまし人々も耳をすましてこそ候つれと扇ひらきつかひてゆゆしけにいひけれは神主うちうなつきてさては心やすく侍り今は事さたまりぬれはいかならん世まても件田は相違あるましなといへは権守とりもあへすいや田におきてははやくとられぬといひたりけるをかしさこそさてはさはなにことをゆゆしくいひたりけるにかふしきのおこの物也