本郷さんの新刊より。

 学会の現状を見てみると、権門体制論はなお強力で、とくに京都周辺では定説として評価されているらしい。なぜこれほど評価が高いのかといえば、分かり易いからだと私は思う。アマチュアの歴史研究者のあいだでは古文書や古い日記を読む努力の不要な古代史、近現代史の人気が高い。本当は古代こそが厳密な史料批判を必要とするのだが、初心者はそれを知らないし、知る必要もないのかも知れない。権門体制論に人気が集まるのも、同様の理由からであろう。
 権門体制論は皇国史観の大義名分と等しく、「かくあるべき」視点をなぞっておけばよい。「どうなっている?」と立ち止まり、中味を詮索する必要がないのだ。天皇が将軍を任命するのであって、将軍が天皇を決めるのではないから、天皇が上位、将軍は下位。そこで思考は停止する。これは楽である。アマチュアにも初学者にも良く理解できる。天皇と将軍の相互関係の実態を知る努力こそが研究者の腕の見せ所ではないかと思うのだが、それはあっさりと放棄される。