新刊

 『情報歴史学入門』(金壽堂出版 2009年)読了。

 花園大の先生方によるわかりやすいテキスト。
 冒頭の「情報歴史学の目指すもの」に記された歴史学に対する危機感というのは、全面的に同意。

 「戦後歴史学の総括」などの言説が出て来るようになってきた昨今、歴史学は大きな岐路に立たされているといえる。実証主義は、ともすれば「安易な史料拘泥」に堕ちてしまい、ただ史料をよみ、個別の実証さえ行っていればいいのだという、社会的コミットメントの無視とでもいうべき研究傾向へとの陷りを示す状況となった。一方、大きな歴史学の復権を試みるあまり、安易な戦後歴史学批判に走り、結果的には、世界的な潮流から見ると、もはや「時代おくれ」でしかない社会理論を信奉し、実証からも離れてしまった研究をも生み出している。
 その結果、起こっているのは、歴史学の足元からの崩壊である。

歴史に関するwebサイトも多数存在し、ある意味では「歴史ブーム」ともいえるべき状況でもある。
 この背反した状況を作り上げているのは、他でもない、歴史学そのものの発信力の弱さであろう。このような「歴史ブーム」のバックボーンを支えているのは、もはや歴史学ではないのだ。観光学・社会学・建築学などという隣接諸学であり、世界遺産条約などの海外からの「価値の再確認」の輸入である。無論、彼らは日本の歴史学を参照していないわけではない。しかし、彼らが参照する歴史学の成果は決して最新のものでもなければ、本質的なものでもない。精緻な成果をとることなく、自分たちの都合のいい部分のみを「つまみ食い」しているにすぎない。いわば歴史学は「草刈り場」となってしまっているのである。結果的に、歴史学そのものと、その本来の史料は、常に消失の危機に立たされ、浅薄な「歴史ブーム」のみが横行する現状を生み出している。この現状の責は、歴史学の外にあるのではない。歴史学の内部にあるのである。