永原慶二「歴史学の社会的責任」(『歴史評論』337)

2 歴史像のとらえ方
 歴史における個別現象を歴史的社会の構造的一環に位置づけながら、その総体を時間的変化に即してとらえてゆくということは、時代とか大きな歴史現象とかいうものは、矛盾をふくむ動的構造体に他ならないという基本的認識に立ってその巨大な対象を把握し、それを歴史像として提示するということに他ならない。したがって、歴史像というものは、単純な個別事実とちがって、歴史家が、一定の史的評価にもとづいて、個別事実を取捨選択し、独自の責任において解釈を加えた結果を示すものである。しばしばいわれるように書かれた歴史は、歴史そのものではなく、不可避的に歴史家の目を通して描きだされたその歴史家の所産物に他ならない。(後略)