外記方・官方・蔵人方

 陣定もそうだけど、外記・弁官・蔵人の動きをきちんと把握してないと、朝廷の実態は分かりませんなぁ。
 ということで、年末年始再勉強。中原俊章さんの『中世王権と支配構造』吉川弘文館 2005年を中心に。
 以下まとめ。

 外記・弁官は本来、太政官の少納言局と弁官局に属していた。蔵人所は天皇の内廷組織であった。しかし中世朝廷では国政の家政化が進み、外記・弁官はより内廷化され、逆に蔵人所は外廷化する。これらが相互補完しながら、公事が執り行われるようになる。特に弁官と蔵人は、名家層が中心となり、実質的な政務を執り行った。天皇・上皇(治天の君)・摂関の間に立ち、弁官・蔵人が立ち廻り文書が発給される。それを職事弁官政治という。(by井原今朝男先生。とはいえ、最初に職事弁官の重要性を説いたのは佐藤進一先生。また他に鎌倉朝廷の文書発給から職事弁官の重要性を説いたのが本郷和人氏) 

・外記方…元々は少納言局。後に外記局と称される。外記は少納言の下にあって、詔書を考勘し、太政官の奏文を勘造する。また、上卿の指揮下で朝儀・公事の記録をとり、下問に応じて先例を調査上申した。
 朝儀・公事の記録を取る職掌の内に、参加する諸司の出欠点呼や催促を行うこともあり、諸司に対して指揮権を強めていく。
 『伝宣草』に依ると「節会行幸恒例臨時諸出事、供奉諸司等事外記所奉行也」「任官之間事、一向外記所奉也」とある。
 また、上卿から勅命が外記に伝えられた場合、外記奉宣旨を発給した。様式は次の通り。
 某(上卿の官位姓名)宣、奉勅宜…者、
 年月日                 某外記某奉
 外記奉宣旨の用途としては、朝儀・公事の召集、任官・身分待遇付与に関する雑務、更に臨時の任官、一座・輦車牛車・禁色雑袍・随身帯剣・除服出仕・列本座等の待遇付与に使用される。特に摂政・関白への補任、摂関への賜随身兵仗、准三后への充封戸、賜太師・禅師・国師号等は詔勅の代用となる。

・官方…弁官局。太政官内での文書についての一切を担当し、諸官司の統括機構として存在する。地方行政の統率も職掌の内で諸国からの上申文書は、外記政で弁官−史が報告を行うことが原則であった。この上申文書で、公文勘済の手続きを史が報告するため、官文殿には前例を集積した。こうして朝廷諸税の末端までを掌握していた。
 この史の上首(左大史)は大夫史として、実務を統括する。この家を官務家という。
 諸儀式では上卿の下に弁・史・外記・史生などで官行事所を組織した。特に儀式の際、用途不足だと諸司や国司に指示して調達を行う。
 諸寮司の中では、大藏省・民部省・大炊寮・主殿寮・掃部寮・木工寮・修理職・京職・大膳職・内膳司・主水司・造酒司・穀倉院・官厨家・侍従厨・位禄所・王禄所を管轄し、儀式・行事の用途・給与配分を行った。
 『伝宣草』に依ると「神事仏事節会行事以下諸公事装束饗禄事、官所奉也」「諸司・諸国諸人申請…皆官所奉也」とある。
 また、官宣旨や史奉宣旨を発給し、朝廷の経済活動を担う。
 官宣旨の様式は次の通り。
  左(右)弁官下  某司(社・寺)
  応…事
 右、…某(上卿の官位姓名)宣、奉勅、宣…者、某司(社・寺)…宜承知、依宣行之、
  年月日          某史某
 某弁某
 官宣旨の用途としては、荘園の収公をめぐる荘園領主=権門勢家と国司との相論の手続文書として使用されるが、その後は院宣・綸旨がその機能を果たす。
 それに伴い、祈祷命令・官使発遣・仏神事日時の指令伝達など儀礼的な用途のみに使用される。

 また、史奉宣旨の様式は次の通り。
  応…事
 右、某弁某伝宣、某(上卿の官位姓名)宣、奉勅宜…者、
  年月日                  某史某奉
 弁官宣旨の用途としては、朝儀・公事の用度、あるいは諸官司・諸国・諸院家・諸寺社からの申請に対する官裁、更に諸寺社の長吏・別当の補任、諸氏の長者・氏院別当に使用される。特に11世紀中〜13世紀中までは官宣旨と共に荘園領主と国司の荘園収公相論の手続文書として盛んに利用された。

・蔵人方…蔵人所。本来は天皇家の内廷組織。蔵人は内裏昇殿者の出勤を監督し任官事務も行う。また天皇の近習として諸官司の指揮も行う。
 諸儀式では、官行事所とは別に、蔵人方行事所を設置した。蔵人所牒を発給し、諸司や諸国から用途徴収も行った。こうみると官方と同様だが、両者の分担は、内廷的要素の強い蔵人方と、外廷的要素の強い官方と一応の区別がついていた。しかし、蔵人と弁官を兼ねる者が多くなり、職掌を見分けるのが難しい。

 以上のような外記方・官方・蔵人方の実務層は、摂関家の政所など家政機関でも同様に活動した。これを政所方といい、外記方・官方・蔵人方・政所方が王朝国家の主要な機構である。